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 ◆プロ・ライター、また多方面で活躍されている野田誠司氏のコーナー◆
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   〜Piano Fantasy vol.16〜
2004年9月15日(水)
 東京文化会館小ホール(JR上野駅・公園口前)
♪Members/中村由利子[Piano]都留教博[Violin]
前田善彦[Cello]河合徹三[Bass]古川昌義[Guitars]
山本恭久[Percussions]和久井仁[Oboe]

昨年に続いて、2度目の観賞となる中村由利子ピアノファンタジー。今回で、
16回目となるから、僕はそのうちのたった2回だけの観賞に過ぎないのだけ
れど、同じ場所で16年間続けてきたこのコンサートは、積み重ねてきたキャ
リアと余裕に満ちた、それでいてとても自然なコンサートだった。メロディ・
メイカーとしての中村さんの生の演奏は、きっと若い頃に比較すれば「艶」の
ようなものも増しているのだと思う。初期の作品も大切に演奏されるところに
とても僕は惹かれているのだけど、最近の作品にも初期の頃の瑞々しさが溢れ
ている。都留さんともずーっと続けておられるし、他のメンバーも長いお付き
合いの中、演奏を共にしてこられたその歴史は厚いものではあるが、けして重
くはなく、安心と抱擁されるような優しさに満ちたメロディーがホールに響き
渡っていた。

ロック・ファンの多くは、ピアノ中心のインストメンタルで終始するポピュラ
ー・ミュージックとしての演奏会は、BGMくらいにしか思っていないのでは
ないだろうか?もし、そうならとても残念なことだ。中村さんは何度となく、
その音楽的な背景と経験を「演歌以外は何でもやってきた」と仰っている。だ
から、ピアノの奏でるひとつひとつの音色、全体のメロディの中に、そうした
キャリアが良い意味で見え隠れする。単に、イージーリスニングやクラシック
の演奏家だったら出てこないようなメロディや曲の展開がある。ピアノの鍵盤
のひとつひとつが淡色の絵の具のようであり、それが幾重にも重なったメロデ
ィは、旋律を越えて、聴く人の心の奥にしまってある子供の頃に観た景色と呼
応して、懐かしさと瑞々しさを呼び起こしてくれる。

なぜだか分からないが、僕は中村由利子の音楽を聴いているとき、メロトロン
の響きを聴いたときと同じ感情になってしまうのだ。メロトロンという元祖サ
ンプリングマシンのような楽器は、アナログ・テープにサンプリングした音源
を鍵盤ひとつひとつにくっつけて鳴らすという今となっては、かなり原始的な
楽器ではあるが、そのテープの音ひとつを読込むときに、テープ自体の不規則
な揺れが音源の揺れとなり、それで、妙な心地よさ懐かしさを呼び起こしてく
れるらしい。その揺れの部分の音が、きっと純正律的な自然な音の波形を生み
だしているからかもしれない。しかし、中村さんの弾くピアノは、平均律調律
された普通のピアノだ。勝手な解釈をすると、中村さんの奏でるピアノの音と
音が触れ合い溶け合い共鳴していく中で生まれる音の揺れが、同じような揺ら
ぎとなり、心地よい懐かしい感情を引き起こしてくれるのかもしれない。きっ
とピアノのタッチが他の演奏家と比べ、独特な感性で奏でているのかもしれな
い。

純正律については、僕のホームページからもリンクしている高梨正義の研究ペ
ージでお読みになってください。高梨氏は、すでにお亡くなりなっておられ、
ちょっとした御縁でご遺族の方と知り合い、リンクの許可を頂いた次第です。
純正律音楽工房
http://www.ne.jp/asahi/mariko/takanashi/masa/index.html

さて、話を戻して今回のピアノ・ファンタジーのゲストは、サクソフォン奏者
の須川展也氏。中村由利子&都留教博名義のアルバム『Progress』からの須川
氏もレコ参加している「For The Animals On The Savannah 」を演奏、色を添
えた。

昨年より心持ち全体の音響バランスも良かったように思うこのコンサートシリ
ーズ、頑張って30回を迎えてもその瑞々しさを失わず、さらに艶にも磨きが
のかかった演奏を聴かせて欲しい。コンサート終了後、関係者の皆さんと一緒
に歓談の時がありおじゃまさせて頂いたが、花実ちゃんのライヴのとき依頼、
4ヶ月ぶりにお会いした中村さん、都留さん共、コンサート直後だからテンシ
ョンが高いのは当たり前にしても、なんだかいつもよりお元気そうに見えた。
そこで、偶然、KONISHIKI (小錦)リハーサルや柴草玲のコンサートのときに
お世話になったキャピタルヴィレッジの荒木社長ともお会いした。柴草さんが
神社や美術館ホールでコンサートをするとのことで、このコラムの最後に柴草
さんのコンサート情報も掲載します。