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 ◆プロ・ライター、また多方面で活躍されている野田誠司氏のコーナー◆
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     ◇ポピュラー・ミュージックと大衆文化◇

 これまでに、音楽業界の問題点を幾度となく指摘してきた。「レコード会社
の過去のカタログを活用せよ」とか、「CD販売のターゲットをもっと上の世
代にしろ」とか、「カバー曲を盛んにせよ」とか、もう何年も前から言ってき
たことが、ここ2年くらいの間にその通りになってきたようだ。まぁ・・、某
メジャー・レコード会社は、僕が提出した企画書をほとんどそっくりそのまま
利用し、なんの挨拶も企画料も払ってくれないという失礼なこともあった。

今後は、音楽一本でも、いわゆる営利追従のタイアップでも、それは一時しの
ぎでしかなくなる。文化としては育たないし、ポピュラー・ミュージック史と
してはその時代にポッカリと穴が空く。

それは、音楽に力がなくなったというわけでなく、大衆文化の領域があまりに
大きく広がり、音楽にドップリ浸かるという人が激減してしまったという結果
過ぎない。昔は、ビデオもなければ、衛星放送も、ケーブルTVも、インター
ネットも無かった。それに、現在のようなアトラクション遊技場も数少なかっ
た。映画も大作は年に数本だったから、こづかいの残りで観るだけの余裕があ
った。携帯電話なんてものはなかったから、電話代で小遣いが減るなんてこと
もなかった。

そういうわけで現在は、音楽に使う金も時間も、そして興味すら激減してしま
ったのだ。それを誰が悪いと騒ぎ立てるのもバカげている。時代の変化を嘆く
より、音楽の居場所をちゃんと確保してあげることが先決だ。

今は、音楽を音楽一本で、押し進めることは非常に難しい。人々には、映像も
ドラマも、ゲームも、そしてアートも、多面的に提供しなければならない。そ
うした多層に重なった「興味」の中に音楽の居場所を見つけなければならない。
けして、タイアップする必要はないし、流行に走る必要もない。ひとつひとつ
の大衆文化&芸能がグレード・アップすれば良いのだ。そうした環境を作り上
げるためにも、音楽は、その曲を、その歌詞を、演奏者を、歌い手を、もう一
度ふるいにかけて、良いもの残し、育てていく必要がある。

巷には「良くも悪くもない音楽」で溢れている。パーっと売れて、年内にはゴ
ミ箱行きのCDの山。消費物となってしまった。今から10年後に90年代の
印象的な曲を10曲挙げてくれと言われても、即答できない人が圧倒的に多い
だろう。心を揺さぶる音楽が極端に少なかったからだ。

音楽が他の大衆文化の中で、もう一度輝きを取り戻すには、「良くも悪くもな
い音楽」を思い切って切り捨て、本当に人の心の琴線に触れる音楽をちゃんと
紹介していくことが必要だ。それは、媒体や僕のようなライターの仕事でもあ
る。今の人々に、我々世代のように「音楽にどっぷり浸かった人生を送れ」な
どと言うことは、毛頭無理なのだ。そうではなく、何層にもなった大衆文化の
中で「他の楽しみ」と共存し、輝くことが音楽の生き残っていく道だ。

インターネットの功罪で、猫も杓子も自称アーティスト(音楽だけでなく)に
なってしまった。金さえ払えば誰でもミュージシャンとしてライヴハウスで音
楽を演奏し、歌える。それはそれでかまわない。が、趣味と本気は区別して欲
しい。そしてプロを育てる業界は、その「本気」と「実力」をちゃんと見極め
て欲しいのだ。見た目や集客力を優先するような手抜きはして欲しくない。育
てるという地道な努力が業界に欠けている限り、文化にはならない。

良い歌詞を書けなければ、プロの作詞家に書かせればいい。良い曲が書けなけ
ればプロの作曲家に書いてもらえばいい。歌が上手ければ、歌に専念すればい
い。演奏力も作曲、作詞の才能もすべて備えた人物は、そう簡単に生まれるも
のではない。そういうところの自覚も必要だ。そうした当たり前のことがこの
10数年の間に壊れてしまった。制作サイドはそうしたところから立て直して
欲しい。

僕等、評論家を名乗る者には責任がある。良いものを紹介するだけでなく、一
生懸命のアーティストであっても、あきらかに「もう伸びない、人を感動させ
る能力はない、技術もない」のなら、「君は無理だ・・・」、「もう、辞めた
方が良い・・・」といった引導を渡す覚悟がいる。厳しいと言われたり、バカ
野郎呼ばわりされることもあるだろう。が、誰も言ってくれないので、いつま
でも高いライヴハウスの集客ノルマに金を払い続ける子、なかには金だけ吸い
取る事務所に騙されている子も少なくない。「夢を買っているんだ」と割り切
れる子はかまわないとして、本当に夢が実現するかのように思いこんでいる子、
騙されている子を見るのは、辛い。心を鬼にして、引導を渡そうと思う。

もちろん、良い音楽をやっているのに、なかなか実らず、チャンスを掴めない
アーティストも少なくない。そうしたアーティストがちゃんと紹介されないの
は、媒体や我々ライターの責任だ。彼らのためには尽力を惜しまない。

     野田誠司 ホームページ http://rockjazz.com/noda/