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       『LIVE AT Sin-e'』 ジェフ・バックリィ
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『LIVE AT Sin-e'』 ジェフ・バックリィ
ソニー・ミュージック・レガシー・インターナショナル MHCP 97-99
2枚組CD+ボーナスDVD(映像)計3枚組
(デジパック、日本のみフォト・ブック封入予定)    \4200(税別)

 1996年に不慮の事故で亡くなって以来、唯一のスタジオ録音盤しか残し
ていないアーティストにしては、異例なほどの未発表音源や編集盤が故人を惜
しむかのようにリリースされてきた。ブートレグに遅れて、ライヴ映像もDV
Dでリリースされている。幸運にも、生前の日本公演をご覧になった方もわず
かにおられるわけだが、それを観なかった人でもジェフ・バックリィの音楽と
人となりを知るだけのソフトは公式、ブートを含めて随分とリリースされてき
た。そして、そろそろ尽きるだろうと思っていた今頃になって、さらに未発表
音源を追加したSin-e'でのライヴ音源が新たに編集され、全34曲、すべて弾
き語りという驚異的なアルバムがリリースされることになった。

オリジナル・アルバム『グレース』がリリースされる以前の実質、ファースト
・ミニ・アルバム『LIVE AT Sin-e'』がフル・アルバム、しかも34曲という
たっぷり入った2枚組音源とDVD映像という3枚組で生まれ変わる。まるで、
ファンへの天国からの贈り物、とも受け取れる。がしかし、この希有の天才ア
ーティスト/ジェフ・バックリィのバンド編成で録音されたアルバム『グレー
ス』すら知らない人にも、そのギターと歌だけで独特の世界観へ引きずり込ん
でいった初期ライヴの魅力を十分に堪能させてくれるだけの魔法を持った編集
盤だ。ジェフ・バックリィのオリジナルだけでなく、ボブ・ディラン、ヴァン
・モリソン、ニーナ・シモンなどのカバーも多く含んでおり、ジェフ・バック
リィのルーツを知ると共に、『グレース』以前にその完成されていた音楽性に
あらためて驚く。そこには60−70年代前後に異才を放ったアルバムを残し
たジェフの父、ティム・バックリィの影は全くなかった。ジェフがティムの息
子であることが知られたのは、Sin-e'でのライヴが話題になって以降のことで
あることからも分かるように実力と才能だけで認められたのがジェフ・バック
リィである。ギター奏法にしても、そのカッティングがユニークであり、コー
ド進行も独特なもの。歌は、どのロック・シンガーよりも心を鷲掴みにするほ
どに心の琴線に響き渡る。

もし、ジェフ・バックリィが今でも生きており、続けてその才能を鋭く磨いて
いったとしたら、世界のロック・シーンは大きく変わっていたかもしれない。

ライヴハウスを運営していると、アマチュアでも希有な才能を見せつけてくれ
るシンガーに出会うことが、希とはいえある。昨今の日本の売れている女性シ
ンガーの幾名かは、そうしたシーンから発掘されたのだろうと思うが、メジャ
ー・レコード会社はそうした逸材を結局売れ筋路線にジワジワと転向させてい
ってしまう。これでは、後が育たない。そんなことを考えていたときに、こう
して、ジェフ・バックリィの新たな音源がリリースされた。日本の若いロック
・ミュージシャンを気取る若者たち。もし、ジェフ・バックリィをまだ聴いて
いないのなら、ギター1本で人の心を動かせるロックがあることを知って欲し
い。ただ、でかい音量で奏でる、歌うだけがロックではないのだ。

                 野田誠司
                 http://rockjazz.com/noda/