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               音楽の仕事
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 2年くらい前に「音楽業界就職本」のような摩訶不思議な書籍が数種類も出
版された。なぜ不思議かと言うと、この業界、はっきり言ってコネで入るしか
ないからだ。あるいは、バイトで入るしかない。夢のないことを言うようだけ
れども、裏方業であっても、信頼できる人の紹介で即戦力になる人材しか、ま
ともに使ってくれない。あとは雑務などのバイトで入って下積みするしかない。
この世界の先輩達がそうしてポジションを獲得してきたのだから、この仕組み
は早々変わるものではない。エンタテイメントという華やかな部分は前線で活
躍しているアーティスト達と会社役員の世界であって、裏方は、いわば職人の
世界だ。そうした世界であることを知っているはずの人達が、あのような本を
書くなんて詐欺みたいなもんだ、と思ったのは僕だけだろうか? まして、こ
の超不景気で簡単に入る隙間などなく、入れても安い時給ときつい仕事を我慢
するしかない。音響や舞台照明のような技術職は、まだ堅実な職種かと思うが
音楽事務所やタレント事務所となるとピンキリだ。ボッタクリじゃないのかな
ぁと思うような事務所も少なくない。

僕は、100%音楽の仕事で食っていける環境になるまで、ほとんど自己アピ
ールも営業もせずに、「こういう人」がいる・・というクチコミで仕事が増え
ていったに過ぎない風任せのような人間なので、偉そうなことは言えないが、
クチコミで人に紹介されていくという信頼関係は必要ではないだろうか? 今
までも若い方から、音楽業界に入るにはどうしたらいいですか?とか、ライタ
ーになるにはどうすればいいですか?とか質問されたことがある。その度に、
「コネがないと難しいよ・・」と答えていった。きっとムカツクような答えに
聞こえたろう。でも、なまじ甘ったるい夢を見させてしまうよりは、突き放し
て、それでも音楽が好きだから・・・と自分で道を切り開くくらいでないとき
っと無理だと思う。それができないようなら、もっと他に向いている仕事があ
るはずだ。若い時なら方向転換もしやすいし、好きなことを仕事にできないか
らといって、別に恥ずかしいことでもなんでもない。大半の人達は、仕事は仕
事として受け止めているはずで、仕事以外の余暇を人生の楽しみにしている人
の方が圧倒的に多いと思う。

 僕はうちのホールでライヴを行っている若い子達には、僕が音楽ライターで
あることや大手プロモーター、レコード会社とも付き合いのあることなどは、
一切話していない。そんな奴がPAをやっていると知ったら、演奏し辛いにき
まっている。だから、うちのホールでは、アマチュアの若い子に「PAさん!」
と呼ばれれば、ハイハイと応答し、ステージ転換でも「マイクの高さは、この
くらいでいいですか?」などと裏方に徹している。息子みたいな年齢の子達に
仕えている。PAとしては、僕はプロではないから当たり前の話だ。でも、す
ぐれたアーティストに出会ったときは、こっそり、方面のお偉いさんに紹介し
たりしている。紹介とはそういうものだと思っている。「紹介してねっ!」と
言われてするもんじゃない。いい人、気にかかる人は、本人の知らぬ間にしか
るべき人に紹介されるものだ。文章とて同じことだ。誰かが僕の文を読んで知
って、また仕事が入ってくる。人の心を動かしてこそ、音楽も文章も良い仕事
が入ってくるのだ。そして、人の心を動かす作品とは、自信と反省のバランス
の上に成立っているはずである。自信がなければ作品はできないし、反省がな
ければ進歩はない。

 本当は、どんな仕事も同じなのだと思う。仕事そのものは大変なのだ。ただ、
好きでやっていて、かつ一仕事終えたときの充足感が次に繋がっていく。好き
なことも「仕事」としては辛いことも多い。それをちゃんと乗り切るだけの意
志があるかどうかなのだと思う。僕は、怠け者なので、ライナー・ノーツ、雑
誌、単行本などの長文の仕事は、締切りが間近になるととても辛い。が、脱稿
したときの開放感と充足感はなんとも言えない。結局、自分の書いた文章が気
に入ればなんども読み返し、次の仕事を夢想する。好きなのだ。

読者さんで、音楽の仕事をしたいという方は、なんでもいいから音楽の仕事を
というのでなく、自分の好きな仕事は音楽の中でもどういう分野なのか、それ
をちゃんと把握してください。本当に好きなことなら、きっと道が開かれて行
くと思います。

前号で紹介した、僕の著書(共著)は、以下のアドレスで購入できます。
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